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2005-07-31 19:19  <刺激>
甘い院生活の日常から、一気にハードな非日常世界に放り込まれた。オープンスクールの5日間は、そんな日々だった。
このオープンスクールは、ラージファーム(大手組織設計事務所:4社)が私立6大学(各大学10名)を対象として講義を行なうもので、
いわば、実務のプロフェッショナルと実務に直結していない大学院教育との架け橋となるための実験的なスクールだ。主催はJIA(日本建築家協会)。
基本的に午前中は、建物見学会。午後から講義が始まり、講義がおわったらグループ設計という流れ。
最初の4日間は、ラージファームが設計した建物(事務所本社、大学キャンパス)を見学し、
午後からの講義後のグループ設計でそれらの建物に対する提案を話し合う。
最終日に、各グループは4つの課題の中から2つを選択し、ラージファームに対してプレゼンテーションを行なう。

最初の4日間は、ムダにハードなだけの日々だった。ラージファームが設計した建物の見学は、設計者自らが説明してくれたので、ためにはなった。
しかし、講義は至極決まりきった事に脚色が加えられた程度のもので、新しい発見、驚きを受けるようなものを得ることはできなかった。
こんなんじゃ、わざわざ朝から遠い場所に出向いた意味がない。新たな発見が得られなければ、オープンスクールも無為なものへと化してしまう。

無為な時間は、4日目の講義が終了し、次の日のプレゼンテーションに向けての2つの課題がグループの中で決定してから、急に密度が濃くなった。
グループは、各大学から1名、合計6名で構成されている。全く初対面の者同士で、残り時間が1日もないという状況下に置かれているということになる。
とはいえ、グループ設計を課しているくせに、その作業を行なうための場所はJIA側からは提供されていない。
結局、僕らのグループは工学院大学の設計室を利用することになり、徹夜で作業を行うことにした。
その時点でグループ内は、互いの作業方法も、コンセプトの作り方も、空間に対する考え方も分からない状態だった。
つまり、それぞれの価値観が全くつかめない状態だったのだ。それまでのグループでの話し合いでは、模型も作れないし、
パソコンも使えない、よりどころが2次元の資料だけという状態だったから、それは当然。
そして当然のごとく、それぞれの課題のコンセプトの大枠も曖昧な感じで、全くの五里霧中のフワフワした状態だった。
その状況を打破したのは、模型材料を購入し、とりあえず今あるイメージを形にしようと模型やCGを作り上げ始めたことだった。
実際に手を動かし、作業を積み重ねていくことで、曖昧なコンセプトを明確化していくことが可能となったのだ。刺激的な時間はそれからだった。

そうなることで、メンバーそれぞれの強み、全体の妥協点が見えてきたのだ。
コンセプトや空間を作り上げていくことが得意だが、そつなく作業ができない者。
それぞれが作業している中、各メンバーを統率するための話し合いの時間を作ることができる者。
コンセプトをプレゼンテーション化し、明確、そして簡潔に伝える技術を持つ者。
強気な態度をとれるカリスマ性を持ち、本番のプレゼンテーションの大舞台でも、積極的にコンセプトを伝えることができる者。
停滞した話し合いを流動的にするために、議論の本質をつく発言でなくても、とりあえず何でもないことでも発言しようと試みる者。
それぞれのメンバーが持つ強みがうまく噛み合い、結果的に限られた時間の中で作業したとは思えないような完成度の高い作品ができたのだ。

一つは、日大船橋キャンパスの全体計画に秩序を持たせるために、
強い形態のシンボリックな塔(ランドマーク)とそれと連続する広場とを14号館前に配置するという提案。
ここでは、割とプログラムにこだわらない有機的な形態で、自由に楽しく設計することを目的とした。
そのためにコンセプトは抽象的なものだったが、それでよかったと思う。
もう一つは、東京工芸大学の既存体育館の桁側と屋根の躯体のみを残し、妻側を全てオープンにするという提案。
単純な操作によって生み出された内部空間は、内外の領域が曖昧化されたニュートラルな大空間となり、
結果として風景と地域住民とをつなぐ空間となる。ここでは、プログラムにこだわった。
桁側に設備機能をまとめ、内部に農業関連(周辺環境から導いた)機能やカフェ、テラスなどといった機能をハコとして点在させた。
そこまで考えてはいなかったが構造的にも問題はないらしく、まさにお見事としか言いようのないコンバージョンだったといえる。
この案は、山下賞を受賞した。

聞くところによると、僕が一緒になったメンバーのうちの数人かはそれぞれの大学の中でトップレベルの学生らしい。
他大学の優秀な学生とともに素晴らしい提案を行なえて、とても刺激になった。ほんの少しだけまた設計がしたくなりました。
by note_R | 2005-07-31 19:19
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